2008/05/24 09:39:16
夏に近づいているからなのか最近はとても暑苦しい。そんな天気はギンギン言ってる誰かを否応なしに思い出させる。
そいつが同級生のサラサラキューティクルの怒りでも買ってくれたらば少しは涼しくなるのにと思っても、彼は先日学園長先生のお使いで一年生のヌルヌルコンビ…何故そう呼ばれているかは知らないが、その子たちと組んだために未だダウンして使い物にならない。
「あっつ~」
パタパタと牡丹が描かれている扇で自分を扇ぐ。生ぬるい風が流れてくるだけだが、無風よりはまだましな気がした。
ちなみにこの扇は事務員の小松田さんの家で売られていたものだ。
「お志津~!」
「小平太」
「いつもの所!」
くのたまと忍たまの教室を隔てる塀の上で小平太が私の名前を呼んだかと思えば場所を指定してサッサと視界から消えた。
別に行く義理は無いのだが、行かなければアイツはずっと待っているなという確信がある。前に面倒で行かなかった時にはそうだった。その時にコイツは犬属性だと確信したのも確かだ。
「行くか」
重たい腰をよいせとあげて、のんびり歩き始めた。向かうは裏山のてっぺんだ。
「お志津遅い~!」
再び小平太を視界に認めた途端文句を言われた。だけど誘われてから四半刻も経っていない。アンタが早すぎるんだ。
「女の子には色々あんの」
適当な言い訳をすれば、小平太はそっかと頷いた。単純なのか素直なのかわからない奴だが、きっと両方だと予測しておく。
「で?」
「で?」
用事は何かと聞いたつもりだったが、目の前で私と同じ角度で首を傾げるコイツには通じなかったようだ。今度は主語を入れてちゃんと聞けば理解したようで話始めた。
「今日さ、一年は組のきり丸のアルバイトの手伝いで子守りしたんだ」
文次郎と長次とと続いた言葉にかなり驚いた。失礼ではあるが、どう考えたってその二人は子守りに適した人材とは言えない。明らかなる人選ミスだ。
「それで…ってお志津聞いてる?私の話」
「うん?聞いてるわよ?」
一体どんなアルバイトになったのか。阿鼻叫喚だったのではないかと、終わったことなのに危惧していたら小平太顔が私の顔の前にあった。ギョッとしたが努めて冷静を装った自分を誉めてやりたい。
「それなら良いけどさ~」
ごめん。ほぼ聞いてなかった。というか、
「小平太、近い」
いい加減に顔を避けて欲しい。至近距離で目を見ながら話すのは恥ずかしいものだ。それに心なしか顔が熱を持ってきている。今の私は顔が赤いはずだ。
「そっかぁ?」
こっちは羞恥でいっぱいいっぱいだと言うのに、普段と変わらない表情態度の小平太が憎らしい。
早く元の場所、私の横に戻ってくれ!という願いは通じず、あろうことかそのまま話を再開させた。今度コイツが掘った塹壕は全部片っ端から埋めてやろう。
「でさ、子供たちがすっげぇ可愛くって、他人の子供でもあんなに可愛いなら自分の子供はもっと可愛いだろうなって」
熱っぽく語る小平太。その瞳は何かを私に訴えている。変にドキドキした。
「だから…二人で可愛い子供作ろうな!」
時間が止まった。一瞬なのか数分なのか。しばらく無言のまま見つめ合っていた。
小平太の顔が赤く見えたのは、裏山に射し込む日差しだけのせいじゃないだろう。
「じゃ、じゃぁ私は先に帰るから」
「う、うん…」
先に言葉を取り戻したのは小平太だった。いけいけどんどーん!の掛け声と共に下に見える忍術学園へと帰って行く。その声が上擦っていたことが私の耳が正常であるというのを如実に伝えていた。
「言い逃げなんて、卑怯よ…小平太…」
明日からどんな顔をして小平太に会ったら良いのかわからない。むしろ会える自信がない。
赤く火照った頬をそっと撫でる山の冷たい風がひどく心地良かった。
****
『六年生の子守唄の段』が良すぎたおかげで勢いのまま書いてしまいました。
六年生の中では一番小平太が好きです。
それにしても…子作り、結婚…何を書いてるんだ私は(苦笑)
PR