2008/05/29 09:07:33
私には好きな人がいた。そう、『いた』。つまりは過去形。そいつには悲しいかな、フラれてすっぱり諦めた。よって今は好きな人なんかいるはずない。なのに、これはどういうことだ?
「千代ー!!」
現状が全く把握出来ない。隣にいた千代に思わず抱きついてしまった。
「どうして私が田島と付き合ってることになってんの~!」
「……なんでだろう?」
そうやって廊下で考えている間にも、周りからはヒソヒソと喋られるわ、指を指されるわ、気分が悪い。中には「えーあの子がぁ~」とか「田島君かわいそー」とか、わざと聞こえるように言ってくる女の子たちもいる。
可愛くなくて悪かったな!大きなお世話!
「静香大丈夫?」
どうやら私はそうとう酷い顔になっていたらしい。愛らしい千代の表情を歪ませてしまった。私が悪く言われるのも、千代に心配をかけてしまったのも、全部田島のバカのせい。
この間の試合で強豪チームの桐青を破ってからというものの、野球部の人気はうなぎ登りで、中でも特に田島は一番の人気者。確かにそれは納得がいく。現に私がフラれた相手こそが田島なのだ。
だからと言っても田島に対する私の想いは完全に断ち切れたのだし、それに今更だが田島へ対する想いは憧れに近かったことに気付いた。
よーするに、こんな噂が流れるのは迷惑でしかない!そういうことだ。
「お、有名人」
ゲ。タレ目。
「誰がだよ!」
「んなの阿部しかいないじゃんって、そうじゃないの!意味分かんないこの状況」
同じ野球部員として何か聞いてないのかと阿部に掴みかかりガコガコ揺らす。ちなみに千代や花井、水谷は傍観しているっぽい。なんて薄情な。
「て、め、や…めろっ!」
やめろと言われて誰がやめるもんか。そう思っていたのに私の手はあっさりと阿部から離れた。それも不愉快な単語が耳に入ってきたから。
「誰が浮気してんのよっ!!」
誰がもう浮気してるって?ふざけんじゃないわよ。今私と阿部が浮気してるとか言った奴出てこいや!こてんぱんにのしてやる。
「落ち着け、な、河合」
「無理。花井、そこどけ」
「静香、落ち着こうよ」
「うん」
何この違い…と花井がぐったりしていたのはどうでも良いのだ。だって私に重要なのは千代だもん。
「でさ、何でこうなったのか野球の面々は知らないわけ?」
いい加減ウンザリなんだけどと呆れながら言っても、知らないの一言でバッサリ切られた。まぁ仕方ない。個人の言動なんてものは余程親しい間柄かエスパーじゃなければ分かるものではないだろう。
「とりあえず…ほとぼりが冷めるのを待つしかないわね」
だから今後しばらく野球部にも9組にも顔を出すのをやめよう。で、聞かれたら否定して噂は放置よ!
「静香、それで良いの?」
「うん。ほっとけば噂なんてそのうち消えるでしょ」
「お前って楽観的」
「まぁね」
いや誉めてないしというどっかのタレ目の言うことはスルーして私は千代と教室に入った。そこでも好機の目に晒されたのは言うまでもない。
放課後いやに私はグッタリしていた。なまじっか有名な田島のお陰で休み時間もひっきりなしに私を値踏みしに来る女子と面白半分で見に来る男子。まるで珍獣かなにかになった気分だった。
「河合、お疲れ」
そんな哀れみを含んだ声にも答えたくないほどに疲弊中な私。だけど、ヴーヴーと振動する携帯にはしっかりと手を伸ばす。
「もしもーし」
「あ、静香ぁ!オレオレ!りおー」
電話は親愛なる従兄殿の後輩の利央だった。ぶっちゃけコイツは犬っぽい。声のトーンから尻尾があればユラユラと振っていることだろう。
「どうしたの~?」
「今日部活休みだから遊びのお誘い!」
「ちなみにメンバーは?」
「オレと、準さんと、和さんっ!」
「行く!」
和さん。それが私の従兄弟。大好きな兄貴みたいな存在。最近はウチに負けたせいで引き継ぎやらなんやらで忙しくてあんまり会えなかったから久々に会えると思うと凄く嬉しい!
「これから直ぐ行くね」
集合場所を聞いてもうお仕舞いとばかりに電話を切った。超特急で駅前のマックまで行かないと。私はいそいそと鞄を小脇に抱え、ガタンと立ち上がった。
「じゃまた明日!野球部諸君!千代!」
急にテンションが上がった私に戸惑う野球部連中とバイバイと可愛らしく手を振る敏腕マネージャーに見送られて学校を後にした。今なら今朝からあったことを忘れらる気がした。
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実は、おーふり連載もやりたいらしい私。
これ以上増やしたら大変だろうからやらないとは思うけどどうなんだろーな。
上のお話しのお相手は田島様になるはず。
あーあー授業始まってるのに生徒おろか先生すら来ていない。今の人数四人(笑)
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